《MUMEI》
言葉 〈おれ〉
駅に着いた。


蓬田は、まだ来てない。


…早く来ねえかな…



ふと、そんなことを考えてる自分に気付いて、なぜか慌てた。



―…電車だ、電車!!
早く来て欲しいのは、おれが乗る電車…



「おはよう」



蓬田の声に少しびびって振り返る。



「…おう、おはよ」



答えると、何を話せばいいか分からず、沈黙が流れた。



踏み切りの音と、アナウンス。



…何かを伝えたかった。


伝えたい言葉が、あるはずだった。




―…ごめん。




…唇から零れたのは、この3文字だった。



「え??」



かき消えたおれの言葉を聞き返そうとする蓬田。



「…なんでもねえ!!」



笑って、大きな声で答えた。


謝らなきゃいけないことは、いくつもある。


『何もできなくて、ごめん』

『無理させて、ごめん』

『…こんなことになっちまって、ごめん』



―…でも、聞こえなくて良かった。



謝れば、蓬田はきっと哀しい顔をするから。


…それに―…


本当に伝えたかったのは、


こんな言葉じゃない気がしたから。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫