《MUMEI》
噂 〈私〉
「…な、あのさ」



瀬田くんが、いきなりひそひそ声になった。



「??…なに?」



お箸を持つ手を止める。

椎名くんは、今日もお弁当を作ってきてくれた。



「―…単刀直入に聞くけど、」


「…?うん」


「―…おまえ、蓬田さんと付き合ってんの??」



…………え??



「…ごめん、もう一回言って」


「だーかーら、みつると蓬田さんって、付き合ってんの??」


「………」



絶句した。



「…そんなうわさどこで」


「へ??どこでって…みんな言ってるよ。
…なあんだ〜、やっぱガセかあ」



事もなげにそう言うと、瀬田くんは
いただき、と言って私のお弁当箱から唐揚げを持ち去った。



「ほへひひても、」



もごもごと唐揚げを飲み込んでから、瀬田くんが続ける。



「…それにしても、お前、ほんと女っ気ねえよな。
空手ばっかやってっと、一生カノジョできねーぞ!!」


「…あー…、うん…」


「まあ、ずっと前からそうだしな。
…でも、もてんのに勿体ね〜、てか、ムカつく〜!!」



そう言いながら、今度は卵焼きをさらっていく。



…そんな噂、流れてるの…!?


私の頭に浮かんだのは、西城先輩の笑顔だった。



…どうしよう…



西城先輩に、誤解されたら―…


椎名くんがご飯を食べてるはずの方を振り返ると、
そこには祥ちゃんとリッコしかいなかった。


―…椎名くん、どこに行っちゃったんだろう??




…もやもやとした不安が、胸に押し寄せた。

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