《MUMEI》

白戸に遠くに引きずられてしまった。

「……あれ?!」

上手い表現が見付からず指を部室に向かって示すことしか出来ない。

「いえ、弁解はしません。」

白戸は目を伏せる。

「鬼久保君とあの卜部が……?」

混乱が治まらない。

「そうですよ。
鬼久保が先輩にぞっこんなんです。」

ぞっこんなのは見てれば分かります。

「……あーそうか、あーびくったー。
もう信じられない!」

「卜部先輩が男と付き合って?」

首を傾げて白戸は聞いてきた。

「はあああ?!なんでアレが出るの。」

「幼なじみで仲良しじゃないすか。」

「私は鬼久保君を取られたことが悔しいの!」

あのかわゆいのを一人占めして……妬ましい!

「先輩、好きだったんですか……」

「鬼久保君てば可愛いんだもん。毎日傍に置いて愛でてたいくらい。
いいなあ、いいなあ、卜部め!でも両想いなら仕方ない、二人が幸せなら私は身を引く……。」

あんな幸せな二人を見せ付けられたらねぇ……。

「――――そうですかね?」

皮肉った笑いを白戸は浮かべた。

「だって完璧二人の世界じゃない?」

今時付き合い始めの恋人同士でも学校でキスなんてするだろうか。

「鬼久保は天然記念物並に恋愛未発達だから……、一時の感情に流されて傷付かないか心配なんです。」



「世喜はそんな奴じゃないよ。」

つい、強く言ってしまった。


「……ごめんなさい。」

白戸もつられて謝ってしまったようだ。

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