《MUMEI》
三人の男
俺が十五年間過ごしたその離れを訪れた事があるのは、俺以外では、三人の男だけだった。


一人は、也祐


一人は、忍


そして、もう一人


忍の父親で、也祐の最初の執事


藤堂 護(まもる)


俺の最初の記憶には、忍の姿は無く、也祐と護は俺にとって父親のような存在だった。


実際、施設から買われた俺の世話をしたのは二人だったから。


俺は、手のかからない赤ん坊だったと也祐はほめてくれたが、多忙な二人が赤ん坊の世話をするのは大変だったに違いない。


それでも、俺はいつも幸せだった。


この頃の也祐は、俺を抱き締めたり、キスをしたりはするが、それは、父親の領域を越えるものでは無かった。


護も、俺をあやす為に抱き締めてくれたが、それも父親としてだった。


そして、俺が、七歳の時。

普通に二十二歳で大学を卒業した忍と、俺は初めて出会った。


也祐の新しい執事として、やってきた忍。


俺は忍が護の息子ときいて、一方的に親近感を感じていた。


…が。


『よろしく、忍』


そう言って、笑顔を向けた俺を見て、忍は俺を凝視してから…


何も言わなかった。


俺は、初めて人に冷たくされた。

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