《MUMEI》
忘れてしまいたい過去
俺は、病室の冷蔵庫からゼリー飲料を取り出した。


俺には、忘れてしまいたい過去が二つある。


一つは、也祐が死んだ事


そして、もう一つが、也祐も忍もいなかった夜の出来事だった。


也祐との幸せな過去を思い出す時、必ず俺はその夜の事まで思い出してしまう。

だから…


思い出す前に俺はできるだけゼリー飲料を飲んでおくことにした。


外はまだ暗く、カーテンを少し開けると星が見えた。

こっちの方が空気が澄んでいるらしく、初めて見た星空よりも、遥かに星の数が多かった。


俺は、空になったゼリー飲料のパックをゴミ箱に捨てた。


目を閉じると、浮かんでくる。


星空の下で…


俺は、必死で逃げていた。

離れに向かう道を塞がれていたから、何処に行ったら逃げられるのか、わからずに。


もしかしたら、護に助けを求めても、無駄だったかもしれない。


俺を追いかけてくる体格の良い『男』は


也祐の、戸籍上の息子だった。


血は繋がっていない事は、顔を見ればすぐにわかった。


俺を捕まえたその男は、也祐には全く似ていなかったから。

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