《MUMEI》 麗子さんからの呼び出し十一月の最初の土曜日。 「どどどど、どうしましょう?蝶子さん。私、やっぱり怒られるんですよね?」 麗子さんから呼び出された洋子さんは、麗子さんの自宅の玄関の前で怯えていた。 麗子さんは、はっきり物を言うし、空手の有段者でもあるから、あまり面識の無い人からは、キツイと思われてしまうところがあった。 「大丈夫ですよ、行きましょう」 私は、岸家の玄関のチャイムを鳴らした。 「入れ」 今は、岸 孝太になった孝太が私達を招き入れた。 「こんにちは」 「こんにちは…」 「いらっしゃい」 孝哉君を抱いた麗子さんは、穏やかな笑みを浮かべていた。 (良かった機嫌よさそう) 私は麗子さんに、皆からの出産祝を渡した。 私達の様子を見て、洋子さんはホッとしたようだった。 「呼び出してごめんなさい」 「いいえ」 そして、麗子さんは笑顔の洋子さんに 赤い印がたくさん付いた台本を手渡した。 「そこ、気に入らないから、書き直して。 ちゃんとハッピーエンドにしてね。 劇でも私が失恋なんて、許せないから」 「は、はイ!了解しました!」 洋子さんは背筋を伸ばして答えた 前へ |次へ |
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