《MUMEI》

「千秋さん、旧屋敷で……」

様子見に来たモモが真剣に言うであろう続きを恐らく俺は知っている。


「幽霊が出たんだろ?」


「なんだ、幽霊のこと知ってましたか。じゃあ体温を測りましょう。」

幽霊と俺の体調を並べるなんてモモにとっても、その程度のことなのだ。


「そんなものより人間の方が恐ろしいものな?」

モモはそれをよく理解している。



「……千秋さんっ!」

突然、モモが後退りした。
俺はその続きを待つ。

「 ……平熱です。
千秋さんて驚かないですよね。つまらないです。」


「そうか。」

つまらない……俺が深く触れないのをいいことに言いたい放題か。


「明日には完治しますね。明日は千石様のとこに行ってくれないと痛み止め処方しませんから。
じゃあ、幽霊に会ったら宜しく言ってください。」

モモは薬を渡さず出て行った。
弱り果てたとこで痛み止めで交渉させる……父さんの命令か……

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