《MUMEI》

「千秋さま……」

また、妄想なのか?
千秋様が僕の方へ寄ってきた。


「長い髪に白い服……、幽霊はお前か。」

千秋様は壁にもたれて苦しそうに座り込んだ。
千秋様の膝が目の前に入ってきた。


「千秋様……苦しいのですか?」

震えている。
僕の頭痛よりも酷そうだ。
おこがましいけれど、手をぎゅっとした。
病気のときは、お母さんがこうしてくれると楽になったから……。


「……タマ、褒美、くれてやろうか……」

千秋様はそう言うと僕の前髪を引っこ抜くように引っ張りあげて額にちゅっという音と共に柔らかい感触を残した……




「ど…………エ、エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ……?!  ぐえふっ」

僕は、
自分でも忘れてたくらいの発毛をした。



髪が半径1メートルの範囲で僕と千秋様の足元を埋め尽くしたのだ。
今年一番の発毛だ。

しかも、千秋様は僕の頸動脈辺りを狙っていたのかピンポイントに倒れた。

ああ、僕はこんなヒラヒラの女の子の恰好して髪の毛の布団で眠りながら窒息死するのか……悲しすぎる。

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