《MUMEI》 正午ガタガタッ! 病室のドアが激しく揺れた。 (…誰だ?) 俺は、大さんから許可を得て内側から鍵をかけていた。 「あ、そこはお昼はいいのよ!」 楓さんの声がして、時計を確認すると、十二時だった。 「し、失礼しました」 ドアの向こうから謝る声がした。 そして、声の主は、ドアの前から走り去った。 「廊下は走らない!」 また、楓さんの声が響いた。 楓さんは、普通より身長がかなり低いが、声は普通より大きかった。 「ちゃんと申し送りもしたし、数も減ってるでしょう?」 怒られている相手の声は聞こえなかった。 「計算苦手って…今日は確かに変更多いけど…」 楓さんの声はそれ以降聞こえなかった。 俺は、冷蔵庫を開けて、今度は病院の栄養補助飲料の缶を開けた。 (甘っ…) とりあえずバニラ味を飲むと、口の中が甘ったるくなった。 俺は、何とかそれを飲み干し、歯を磨いてトイレに行った。 そして、またベッドに潜りこんだ。 閉めたままのカーテンの隙間から、光が入ってきていた。 今日も、秋晴れらしい。 前へ |次へ |
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