《MUMEI》
秋晴れの出来事
俺が、也祐が出した高校レベルの数学の問題を解いた十四歳の日も、秋晴れだった。


難問を解いたからと、也祐が俺を庭に連れ出したから、よく覚えている。


体力を付けるための、也祐との敷地内のジョギングは、いつも夜で、昼間俺が外に出る時は滅多に無かった。


『綺麗だな!』

『お前の目の方が綺麗だよ』


也祐は、俺の瞳を覗き込んで、額に優しくキスをした。


…その一年後。


『あー、あ〜、…』

『どうした? 祐也』

『ん〜?、何か最近声がおかしいんだ』

『…風邪かい? 熱は無いみたいだけど、気をつけなさい』

『…うん』


そんな、やりとりから三日後の朝。


『おはよう、也祐』


俺は、隣でいつものように眠る也祐に、いつものように囁いた。


いつもと違う、低くて響きのある


大人の、声で。


『…誰だ』


也祐は、驚き目を見開いた。


『俺だよ? 也祐』


いつもと違う険しい顔の也祐に、俺は首を傾げた。


『祐也…? その、声は』

『起きたら、…こうだった、けど?』


その日、也祐は初めて俺におはようのキスをしてくれなかった。


食事も一緒にとってくれなかった。

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