《MUMEI》
一年前・1
周哉の母親の律子と妹の麻耶が死んだのは、ちょうど一年前。
周哉が高校一年生の時だった。
玄関で靴を履きながら
「じゃあいってくんね」
と、周哉は言った。
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい、お兄ちゃん」
律子と麻耶が見送りに来た。
「あ、母さん。俺今日帰り遅くなるから」
「え、何で?」
律子は、キョトンとしながら聞いてきた。
それを見て、周哉はオイオイと言いながら
「もうすぐ試合だからって昨日も言ったじゃん」そういうと、
「あ〜何かそんな事いってたわね」とようやく思い出したように言った。
「しっかりしてくれよ」
「ほらほら、早く行かないと部活遅れちゃうよ」 「え?あっマジだやべぇ!じゃあいってくるから」
「はいはい、気をつけてね」
「部活がんばってね、お兄ちゃん」
あぁ、と言いながら周哉は、学校へ向かって走って行った。
もう二度と二人に会えないなどと、思いもせずに・・・。
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