《MUMEI》

『あれは、俺が干したんだよ…。』


沈黙に耐えかねて、稜兄が言う…。


『…違うの…あれは。』


慌てて私も話しだす…。


『…ちゃんと説明しろよ。俺に分かるように…。』


渉は明らかに怒ってた。


真夏の夕暮れ…
蒸し暑い部屋は、異様な空気に包まれていた…。


“…渉に、
ちゃんと説明しなきゃ!”


そう思って頭の中を整理しようとしたけど考えが、うまくまとまらない…。


蒸し暑い部屋で、サウナスーツを着ているせいだ…。


…ヤバッ。…また頭がクラクラしてきた。頬をつたう汗が止まらない…。


『…璃久。大丈夫か?』


渉が聞く…。


『…うん。…ごめん。
ちょっと水飲んでくる。』


『お前…凄い汗だぞ。
それじゃ暑すぎるだろ?
…着替えて来いよ。』


…う゛。
渉の言う通り着替えたい。……でも
服がまだ乾いてないし…。


『…これ着ろよ。
ついでに風呂入って、汗流してこい…。』


そう言って稜兄が、Tシャツと短パンを貸してくれた…。


渉の機嫌を伺うように、私が顔を上げると、渉は黙って頷いた。


『…じゃ
お風呂借りるね。』


私は、そのままお風呂場に行こうとした…。
…が、下着がない事に気が付き急いで物干しまで引き返す…。


私は、真っ赤な顔を隠しながらお風呂場に走った…。


“はぁ〜
何でこんな事に…。”


落ち込みながら、ぬるめのお湯に浸かり、体の火照りをとった…。


30分程で出てきた私は、まだ乾いていない下着を身につけ、リビングへ…。


『…渉?』


部屋には渉一人…。
壊れたクーラーを分解し、修理をしていた…。


『…稜兄は?』


『…出かけたよ。』


『…そう。
あのね渉…さっきのは…』


『もういいよ!!』


渉に怒鳴られた…。


『…さっき璃久が、風呂に入ってる間に稜兄から聞いた…。熱中症だって?』


『…うん。』


『はぁ〜。』


渉は飽きれた顔で、ため息をついた…。


『お前さ〜恥ずかしくねぇの?熱中症で倒れて、服脱がされて、全裸になって…。挙げ句の果てには、下着まで洗われて…。
みっともないよ璃久…。』


“…………。”


『…そんなの
…そんな事言われなくても分かってるよ!!
私だって恥ずかしい…。
恥ずかしいから、このクソ暑い中、サウナスーツ着たんじゃん!!』


図星だっただけに、私も悔しかった…。


『…それもムカつくんだ。
俺には、見られたくなかったんだろ…。
稜兄は良くても…。』


『…何それ?
そんなわけないじゃん!
稜兄にだって見られたくないよ!でもしょうがないじゃん…気を失ってたんだから…。』


『璃久…
バイト辞めてくれない?
今までの給料は、払うからさ…。』


“なっ!何で…?”


心の中では思ったけど、渉の顔が、そうは言わせてくれなかった…。


『…それって
…クビってこと?』


私の質問に、クーラーを直しながら背中を向け、黙って渉は頷いた…。

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