《MUMEI》
「なんだよ〜…慌てて来たのに…」
日高と駅の改札口の前で待ち合わせしていた。
携帯をポケットから出して確認すると、約束の時間からもうすでに20分過ぎてしまっている。
「は〜…もう…」
壁に寄りかかり躰をゆっくりと休める。
まだ貢に抱きしめられていたかった気持ち、頑張って振りきって走って来たのに…。
▽
「ごめ〜ん!佐伯」
「おせえよもう!」
「ご免!なんか髪型決まんなくてさ〜!じゃあ行くか!」
更に10分遅れで登場した日高。
………いつもと変わらない、ちょっと寝癖くさいつまらない髪型。
「――もう、行くぞ?」
「な〜俺の服装大丈夫?」
「う〜ん…多分な〜」
ジーンズにブランドでもなんでもない、地味なシャツな服装にどうかと求められても…
日高に誘導され入った事の無いカラオケボックスに着き、日高がメールを打ち終えるとすぐに、カウンター前に日高の兄貴が現れた。
「お前らおせ〜よ!なにしてたんだよ!」
「ごめん兄貴、佐伯がもたついてたから」
「は?な、日高?」
日高の兄貴、拓也さんは俺を一瞬睨んだ…が…
「――君が佐伯君?」
「は、はい、はじめまして…」
何度も日高宅にお邪魔しているが何故だか会ったことがなかった。
拓也さんは俺を上から下まで見た後、何故か突然顔が赤くなった。
「お、女の子待ってるから行くぞ」
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