《MUMEI》 熱「有希、疲れてるんじゃないか?顔、赤いぞ。熱でもあるんじゃ……」 「だ、大丈夫です。この撮りが終わったら薬飲みますから」 「……最近、有理と野中さんのことで大変だったからな。明日は休みにしよう。ゆっくり休んでいいよ」 月岡さんの言葉は嬉しかったけど、今、家にオレの居場所はない。 休むにしても、休む場所がなかった。 「大丈夫ですから気にしないでください。ちょっと熱が出たくらいで休んでちゃこの世界では生きていけませんよ」 「お前の場合は違うだろ。今は甘えていい。まだ17のガキのクセに大人ぶるな」 月岡さんのこんな強いものの言い方を聞いたのは初めてだった。 すごくびっくりして月岡さんの顔を見ると、少しだけ怒っているような、でも心配そうなどちらとも取れる表情をしていた。 「……ハイ。じゃあお言葉に甘えて」 オレが真っ先に頼ったのはもちろん環さんだった。 看病はいいから、誰も気にせずに眠れる場所が欲しかった。 「それじゃあ行ってきます。お粥は温めて食べてください。私が帰ってくる頃に食べてなかったら怒りますからね」 「……ワカリマシタ」 昨日、環さんが作ってくれたお粥を食欲がなくて残してしまった。 そうしたらものすごく悲しそうな顔をして、泣き出してしまった。 それを慰めてあげようとすると、オレを思いきりベッドへ突き飛ばして部屋を飛び出して行ってしまったのだ。 明け方近くになってようやく戻ってきたけど、オレが起きて待ってたことに今度は自分に対して嫌悪感を持ち始め、また泣き出してしまった。 そんな彼女をなだめて仕事に送り出すのに、とてもとても体力を使った。 ……もう二度と彼女の料理は残すまい。 だるい身体でオレはしみじみとそう誓ったのだった。 環さんの今日の仕事はドラマ撮影で、終わるのは夕方ということだった。 その帰りにオレの家に寄って、着替えを取ってきてもらうことになっている。 その時にオレの外泊先がバレてしまうのは嫌だけど、仕方がない。 「お粥…温めよう」 美味しいんだけど、食欲がない。だけど食べないと治るものも治らない。 ふたりのためにも、オレが頑張らないといけないんだから、早く全快しないと。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |