《MUMEI》 着替エ――ピンポーン 「環です」 「入って」 ドアの鍵は中から操作をすれば開くことを初めて知った。 「どうした?流理なら昨日から帰って来てないけど。連絡も何でかないし…」 「流理さんなら私の部屋にいますよ」 「……は!?」 「疲れで熱が出ていて……ここには早苗さんがいますから帰れないと私のところへ…」 「なんだ、そうだったんだ。流理はいつも遅くなる時は必ず連絡入れてくれるからさ、心配した」 「それで治るまで私が預かりますから、着替えを今日は取りに……」 「流理の部屋はここを出て、一番奥の右」 「ありがとうございます」 男の人の部屋に入るのはこれが初めて。クローゼットとか開けて服を取るとかもっての他。 き、緊張する! ……どうせ有理さんのことだから私のこの状況を笑ってるに違いない。 どこに何が入ってるんだろう……。見られたくないものとかあったら!?い、いやっ流理さんに限ってそんなことは……。 「あの女、今ごろ困ってんだろうな〜」 「……有理?何ひとりで笑ってるの」 「いや別に。すぐにわかるよ」 「?」 ――ガチャ… 「ゆ…有理さぁん、早苗さん…か、帰りますね……」 「おう。流理を頼むな」 「た…環さん?大丈夫ですか?」 「ハ、ハイ…大丈夫です。失礼しました……」 早苗は環が帰ってったのを確認すると、すぐに有理を問いただしたのだった。 「ただいま」 環はこの家に住んで初めて“ただいま”と声に出した。今までは絶対に返事がないから言わなかった。 「……おかえりなさい、環さん」 ただその一言なのにすごく心がいっぱいになった。 「着替え取ってきました!早く着替えてください」 「ありがとうございます。有理はちゃんと教えてくれましたか」 「ハイ…一応。手伝ってくれはしませんでしたけど」 「じゃあおひとりで?大丈夫でしたか」 「なんとか」 流理は熱のせいか恥ずかしいのか、顔が赤い。 前へ |次へ |
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