《MUMEI》
通訳
孝太の発言に、大人達は急に静かになった。


「どういう事ですか?」


「…例えば」


孝太は麗子さんを見つめた。


「な、何よ?」


麗子さんは孝太を見つめた。


「麗子は今、照れている」

(そんなの、見ればわかる…)


「そうなんですか?」


(え?)


私の思いに反して、洋子さんはひどく驚いていた。


「怒ってるんじゃないんですか?」

「…何で?」


洋子さんの質問に、麗子さんは不思議そうに答えた。

「だって、今、…睨んで…」

「無いから」


洋子さんの言葉を、麗子さんははっきりと否定した。

「だって…『何よ』って…」

「蝶子、通訳」

「え?」

「『何よ』の意味」


(え〜と)


孝太に指名されて、私は答えた。


「『何よ、あんまり見ないでよ、恥ずかしいから』?」

「正解」


孝太は満足そうに頷いた。

「…俺もちゃんとわかるようになったのは結婚してからだが、麗子は、本当は…
すごく、可愛いんだ」

「そんな事言わないでよ!」

「蝶子、通訳」

「『そんな、嬉しい事皆の前で言わないでよ。
恥ずかしいから』?」

「正解」


孝太はまた、今度は笑いながら頷いた。

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