《MUMEI》 そこが好き「本当に、お人好しだなぁ、蝶子は」 「だって、あんなにお願いされたら断れないじゃない」 私は結局洋子さんのお願いを聞いて、麗子のセリフの後に、心の声を書く事になった。 文章面でおかしな所があったら、洋子さんが修正してくれるから、私は意味が伝わるようにだけ注意すれば良かった。 「早速今日から始めるの?」 「うん。少しずつだけどね」 洋子さんからは、三月末までに仕上げればいいと言われていたが、明日から仕事も始まるし… (あれも、仕上げなきゃいけないし…) 私は毛糸が見えている袋を見つめた。 来月のバレンタインには、子供達にはマフラーを 俊彦には、帽子を編んでプレゼントする予定だった。 (今時ペアルックってどうかなって思うけど) 俊彦が喜ぶから、同じデザインの自分の分も編んでいた。 「蝶子は相変わらず、人の事ばっかりだな」 「俊彦…書けない」 俊彦が後ろから私を抱きしめるから、私は身動きがとれなくなってしまった。 「でも、そういう蝶子、嫌いじゃないよ」 俊彦は耳元で囁く。 「むしろ…大好きだ」 そんな俊彦のせいで…結局、今日もあまり書けなかった。 前へ |次へ |
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