《MUMEI》
副長
 声は耳からではなく、直接頭に響いてくるようだ。
高いような、低いような不思議な声は、羽田に何かを訴えるように悲鳴らしき音を響かせ、消えていった。

「……先生、大丈夫ですか?」

肩を揺すられ、羽田は目を開けた。
隣では凜が少し心配そうな表情で羽田を見ていた。

「あ……うん」

羽田は頷き、耳にあてていた手を離した。
そして立ち上がる。

「君たち、いったいなぜこんなところに」

そう言いながら駆け寄ってきたのは、レッカが副長と呼んでいた人物だった。

「怪我は?」

「ないです」

凜は答えてから羽田を見た。
羽田も大丈夫だと頷いてみせる。

「君たちは、たしかレッカといた二人だな。避難したんじゃなかったのか?」

副長は厳しい口調で羽田と凜に言った。

「避難はしたんですけど……」

凜はそう言うと、横目で羽田を見た。
その視線を受け、羽田はバツが悪そうに俯いた。

「すみません。わたしが無理言って外に出ました」

反省するように言うと、副長は呆れた表情で羽田に視線を向けた。

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