《MUMEI》
冗談
「君は、この子のお姉さんか?」

「いえ。……彼女の担任です」

羽田の声はだんだんと小さくなっていく。

「先生? ……だったら君はこの子の身を守る立場にあると思うんだが?」

「はい。すみません」

「……まったく。さ、早く避難場所に戻りなさい」

ため息をついて副長は言った。
その時、向こうの方から小さな明かりが近づいてくるのが見えた。

「副長、どうしたんですか?」

声は若い男のようで、近くまで来てようやくその顔が見えた。
 まだ二十歳そこそこの若い男は怪訝そうな顔を副長と羽田たちに向けていた。
おそらく討伐隊のメンバーなのだろう。

「何かトラブルでも?」

「ああ、いや。この二人が何を考えたのか、避難所から出てきたらしくてな」

副長が言うと、青年はさらに眉を寄せて「二人?」と首を傾げた。

「この人以外にも誰かいるんですか?」

彼はそう言って手に持っていたライトを羽田にあてた。

「何言ってるんだ。いるだろう、彼女の隣に女の子が」

副長の言葉に、青年は明かりを羽田の左右に振ってみるが、困ったように副長の顔に視線をやった。

「冗談ですよね?」

「え、いや……?」

同じように困った顔をしながら、副長は羽田と凜を見る。

「もう、副長の冗談はわかりにくいですよ。じゃ、自分は見回り続けますので」

彼はそう言うと副長に一礼し、羽田に会釈をして走り去って行った。

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