《MUMEI》
子牛の気分(俊彦視点)
(蝶子、蝶子、蝶子、蝶子…)


考えながら、俺の頭の中には●ナドナが流れていた。

「本当に、すみません」

「…… …… い え」


俺は、『謝る位ならこんな事をするな』というセリフを飲み込んだ。


それは


洋子さんが女性で


商店街の仲間の一人の愛理と親戚関係にあったからだ。


もし、洋子さんが男だったら、俺は車にも乗らなかっただろう。


俺と蝶子の愛の巣がある商店街が見えなくなり、車は峠を走り抜けた。


峠を下り、見えてきたのは、馴染みの無い洋子さんの高校がある市街地だった。

(何か…本当に売られてきた感じだなぁ…)


どこの校舎も似たような物だが、知り合いのいないその高校


吾妻高校は、俺には異世界のように感じた。


(全く何でこんな事に…)


俺は機嫌が悪かった。


「すみません、本当に。でも、私だけじゃ、柊(しゅう)はどうにもならなくて…」


柊というのは、俺役の男子生徒の名前だった。


(そうだ…元はと言えば、こうなったのはそいつのせいだ!)


俺は怒りの矛先をそいつに向ける事にした。


(洋子さんにも『厳しく』って言われてるからな)

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