《MUMEI》
寂しい夜(俊彦視点)
女子部屋から男子部屋に戻ると、俺は携帯を取り出した。


「奥さんに電話ですか?」

「まぁね」


(せめて、声位は…)


《おかけになった電話は…》


(せめて、一言だけでも)


『蝶子、電話ちょうだい』
『蝶子、電話ちょうだい』
『蝶子ちょうだい』

『蝶子』


「な、何でだ…!?」


…いくら送信しても、返信が一通も来なかった。


携帯が壊れていない事は、さっき柊にメールして確認した。


「寝てるんじゃないですか?」

「誰とだ!?」

「いや…子供達と」


…確かに子供達はもう寝ている時刻だった。


『じゃあ、皆今日は早めに寝ましょうね』

『うん、ママ』×3

『俊彦がいないと、四人で寝れていいわね』

『うん』×3

『このまま帰ってこなくてもいいのにね』

『うん』×3


(ハハハ…まさかなあ…あり得ない、あり得ないぞ、俊彦。
蝶子はお前を愛してるんだぞ)


「あの、そろそろ…電気、消しますよ、俊彦さん」


「あ、あぁ…」


そして俺は、一晩中鳴らない携帯を握りしめながら眠った。


頭の中ではいつまでも●ナドナを…蝶子と子供達が歌っていた。

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