《MUMEI》
川崎家の朝
 

川崎 雄介 42歳。

 平日の起床は決まって6時15分。

目覚ましのベルを止めて、危うく二度寝にかかりそうなところで『クシュン!』と自分のくしゃみで我に返る。

 まだ足元の覚束ないまま玄関の郵便受けから新聞を抜き取りリビングに向かう。

 テーブルに置かれた白い皿の上にはいつものように妻の美佐代が焼いた2枚のトーストが無造作に重なり合っている。

 美佐代とは特に不仲と言うわけでもないが、最近ではお互いに「おはよう」の挨拶すら交わすことはない。

 雄介が2枚目のトーストに手を伸ばす頃に二階から長女の美香が降りてくる。

 中学二年。世間で言う反抗期なるものへ突入したばかりだ。
かと言って親が手を焼くほどの問題を起こすわけでもなく、学校へもちゃんと通う日々を送っていた。


「おはよ」


と雄介が真向かいの席に座りかけた美香に声を掛ける。

…が返事はない。
更にもう一度、


「お・は・よ」


と、広げた新聞をわざとらしくバサバサと揺さぶる。


「はいはい…、おはよーさんです」


やっと返って来た美香の言葉はお世辞にも愛想の良い挨拶と言えるものではなかった。

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