《MUMEI》
課長 川崎雄介
 
 雄介の仕事はコピー機やパソコンと言ったOA機器を販売する商社の営業マンだ。

 一応、営業課長と言う役職を与えられてはいるものの、それを素直に喜べない事情が彼の所属する部署にはあった。

 その会社では営業組織は大きく二つに分かれていて、一つは雄介の所属するありきたりな名前の『営業課』。

そして、もう一つは、
『BCAP』と呼ばれる何やらハリウッド映画にでも出てきそうな名前の部署が存在した。

『BCAP』とは、ビッグ・クライアント・アタック・プロジェクトの頭文字を取ったもので、その名の通り、大手得意先をメインに活動するエリート営業部隊と言ったところだ。

 とは言え、雄介も営業マンとしての実力はBCAPのメンバーに引けを取らないほどの物は持ってはいたが、簡単にエリート集団に引き抜かれるような事は起こり得なかった。

 そこには、表立っては見えていないが、学歴主義や大学派閥と言った雄介の嫌いな“大人の事情”って奴が横たわっていたのだ。

 高卒組で今の位置まで上り詰めた雄介は『営業課』の中ではまさしくヒーロー的な存在だった。

 課内の飲み会の席でも酔いが最高潮になれば皆が口を揃えてこう言った。


『BCAPなんて、誘われたって誰が行ってやるもんかっ!』





もっとも、BCAPに誘われる者はその中には誰一人として居ないのであるが…。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫