《MUMEI》

「はぁ…


はぁ…」


昼休みの体育館。


普段なら遊ぶ為に使う生徒もいるが、


この季節。


真夏日にわざわざ蒸された体育館を使う者はいなかった。


それは、


椎名には都合のいいことだった。


誰も来ないから、


ボールを使って練習することができた。


と、


言っても、ひたすら壁打ちを行うだけだったが…


(…さすがに暑いな。)


Tシャツはもう汗でびっしょりだった。


ガラッ…


(…?)


ドアの開く音がした。


振り返る椎名。


「あれ?


椎名くん何してんの?」


「なんだ…


佑香か…」


「何そのリアクション?」


少しだけ、


期待していた。


もしかしたら、


自分が頑張る姿につられて誰か戻って来るんじゃないか?


と。


「別に。」


「あ〜、椎名くんハンド部だったもんね。」


「だったじゃね〜よ!!


今もハンド部だよ!!」


「え?


でもハンド部は潰れたって聞いたけど?」


「…潰れてね〜よ。」


「ふ〜ん。」


「なんだよ!?


何しに来たんだよ!?


さっさと行けよ!!」


「すぐ行くよ。


あたし体育委員だから先生に頼まれて道具取りに来ただけだし。」


「…ふん。」


また壁打ちを始める椎名。


「…ねえ?」


「なんだよ?」


「楽しい?」


「…楽しいよ。


ハンドやってる時につまんないなんて思ったことないし。」


「じゃなくて、」


「は?」


「1人でやってて楽しい?


って聞いたの。」


「…」


「ハンドボールやりたいんでしょ?」


「…」


「あたし聞いたんだよね。


ハンド部人数足りなくなったって。」


「…」


「ホントは潰れたんでしょ?」


「俺は…」


「?」


「まだ俺は諦めてない。」


「…どこが?」

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