《MUMEI》

 
 鈴木の減らず口は尚も続いた。


「課長…。這いずり回るような泥臭い営業スタイルはもう時代遅れです。
 今は頭脳とコネクションを使わずして成功なんて有り得ません。
 そんな営業課なんかにいつまでも留まってないで、早く上を目指して頑張ってくださいよ」


 その話が終わると同時に7階へ到着したエレベーターの扉が開いた。

 雄介はエレベーターから降りる一瞬の間に8階から最上階まで全てのフロアボタンを押し、


「各駅停車の人生ってのもなかなか面白いもんなんだよ、鈴木君」


と言って、まるで止めを刺すように『閉』ボタンをビタリと押した。
 
 そしてエレベーターの扉は慌てふためく鈴木の姿をゆっくりと視界から遮断していった。


────


 雄介がデスクに着いてメールを確認すると、さっき鈴木が話していた内容を綴った連絡がBCAPから届いていた。

『たった1通の電子メールで部下たちの苦労が他人の肥やしになってしまった…』

 やりきれない思いはその日一日ずっと引きずった。
 
 そして、商談もキャンセルとなったその夜、雄介は久しぶりに家族全員が集まれる時間帯に家路に着いた。
 
 仕事がうまくいかなかったから団欒を迎えられるというのも、全くをもって皮肉な話ではある…。

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