《MUMEI》
口裏合わせ(俊彦視点)
「おい! 柊」

「はい! 何でしょう!」

「…耳貸せ」

「?」


俺の言葉に、柊は首を傾げながら従った。


今、蝶子は体育館にいない。


蝶子の性格からして、ゼリーの器を片付けに行ったら

(多分、昼飯作るの手伝うだろうな)


愛しい蝶子の行動パターンを俺はよーく、知っていた。


だからこそ、今のうちにやっておかなければならない事があった。


「お前、俺に怯えるのやめろ。

俺も、スパルタは午前中でやめるから」

「…は?」

「蝶子が…嫌がるんだよ、そういうの。

それに、お前、蝶子助けたんだろ?」

「あ、ナンパの事…」

「なぁに〜!? ナンパだとぉ〜!?」


俺が言っているのは、柊が蝶子の荷物を持って、ここに案内した事だった。


「く・わ・し・く、話してくれるかなぁ〜?

ねぇ、…柊君?」

「は、はい!もちろん!」

「俺に話した事は蝶子には内緒だよ?」

「は、はい!もちろん!」

「そう怯えないでいいんだよ〜、俺は、午後からは優〜しく、なるから、…ね?」

「は…」

「蝶子の前で怯えたら…わかってるよね?」

「はい!」

「よしよし」


俺は震える柊の頭を優しく撫でた。

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