《MUMEI》
佐藤裕司
俺、佐藤裕司とあいつ、名塚麻里の中学時代のことを、まず話さなくちゃならない。
とは言っても、大した話なんざないんだけどな。中2・中3と偶然同じクラスだっただけだ。俺は弱小サッカー部に所属して、まあそれなりに忙しく、汗くさい日々を送っていた。名塚はどうだったんだろう。合唱部に入っていただのやっぱり吹奏楽部に移っただの、そういった話はよく耳にした。教室では、よく分からんアーティストの話題で盛り上がっていたな。こっそりiPodとか聴いていた。
でも、なんでだろうな。名塚はいつもつまらなさそうだった。オリコンスタイルを読んでいても、iPodをいじっていても、その顔はどこか憂鬱で沈んでみえた。それが焦燥感だと気づいたのは、だいぶ後になってからだ。何を焦っているんだか。好きな音楽聴いて、それで満足じゃないんかよ。
名塚がどこの高校を受けたのか、俺は最後まで知ることはなかった。俺は部活を引退した中3の夏から本格的に受験勉強を始め、なんとか地元の県立高校に合格することができた。ここ、県立南高校にサッカー部は一応存在したが、入ろうとは思わない。そこまでサッカーに思い入れはないからな。高校生になったら、中学で遊べなかった分、思い切り自堕落な生活をしてやろうと密かに決意していた。受験明けで、だいぶストレス溜まってるしな。何かで発散しないと、やってらんねー。
そんなわけで、俺にとって名塚麻里は、音楽が好きで背が低くて、憂鬱そうな顔をした同級生となるはずだった。きっと半年もしたら、顔も思い出せなくなるはずだったのだ。そりゃそうだ、マトモに話したこともないんだからな。今思えば、同じクラスだった割にはなんて品薄な仲だったんだろうと思う。
そんな名塚麻里が、今じゃバンド仲間だなんて。
世の中、何があるか分かったもんじゃないと思う。
これは俺が名塚と再開し、腕が立つ美形の双子を足して、4人でバンドを始めた半年間の記録。音楽なんかこれっぽっちも興味なかった俺が、今じゃドラマーとしてバンドを支えている。こんなこと、中学時代の俺が見たら呆れるだろうな、おまえ何やってんだ!って。
だけど、悪い気はしない。
何故なら俺、今むちゃくちゃ楽しいからだ。
じゃ、まずは俺と名塚が再開した、入学式の日から始めよう。
その日は、むせかえるくらいたくさんの、桜の花が散っていたーー。
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