《MUMEI》
叩かれた背中
   〜海視点〜


ガチャリ――。


ドアを開けると、じっとこちらを見つめる歩がいた。


「もう話、終わったの?」


歩の問いに俺は、あぁっと一言返事を返す。


歩はそれ以上何も追及してこなかった。


歩なりに気を使ってるんだろうな・・・


俺は、ふっと笑いを零した。


いきなり笑った俺に、歩はビックリしたのか目をパチクリさせた。


歩の言葉に救われるなんてな・・・


俺は、笑いながら歩の背中を叩いた。


感謝と尊敬の意を込めて――。


「いって〜!!何だよ海!?」


歩は、涙を目に浮かべながら背中をさする。


相手のことを大切に思ってるからこそ傷つけるのが怖い――傷つくのが怖い。


でも歩は、違うんだな。


相手が大切だからこそ、まっすぐにぶつかっていくんだな。


相手の笑顔を、幸せを一緒に見つけるために。


栄実が欲しかったのは、同情でも遠慮でもなく――前に進む力、背中を押してくれる言葉だったんだな。


否定的な栄実から目を逸らさず、ぶつかっていく歩は、正直カッコいいと思った。


ずっと俺がしたかったことを、いとも簡単にやってのけてしまう歩を、羨ましいと思った。


栄実の背中を押せるのは自分だけであって欲しかった・・・。


でも、俺たちの中にある大きな岩を砕いてくれたことには感謝してる。


本人には絶対に言わないけどな!!


俺は、もう1度歩の背中を叩いた。

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