《MUMEI》
目的地
「車で行くの?」

「そう!」


(だから、ビール飲まなかったんだ)


私は納得して、レンタカーの助手席に乗り込んだ。


「どこ行くの?」

「いいとこ!」


俊彦は、鼻歌まじりに車を走らせた。


…数分後。


「ちょっ…俊彦」

「ん?」


俊彦が迷わず車を入れた建物に、私は焦っていた。


(こ、ここって…)


城のような外観の建物。


休憩と宿泊の値段表。


「大丈夫。フロント行かなくて、直接部屋に行けるから…恥ずかしく、無いよ?」

「そ、そういう問題じゃなくて…」

「カラオケもあるし、ここのお湯、温泉なんだよ」

「そうなの? …じゃなくて!」

「温泉宿よりリッチだよ〜
ベッド大きいし」


俊彦は、車を降りた。


車の前に、ブルーのロールカーテンが下りてきた。


そして、俊彦が助手席側のドアを開け、私の前に手を差しのべる。


「さ。…おいで」


(う…)


私は、この、俊彦の優雅な仕草と甘い声と…


極上の笑顔に


…とても


とても、弱いのだ。


私は、シートベルトを外し、俊彦の手に…


震える、自分の手を重ねた。

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