《MUMEI》
柔らかなマット
お互いの唇が軽く触れる。

それから、軽く音を立てて何度も唇を重ねる。


やがて、どちらからというわけでもなく、口が開き、お互いの口腔内に舌が侵入する。


互いの舌が複雑に絡み合い、口腔内と体の温度が上がり、唾液の分泌量が増えていく。


「…フゥ…… ちょっと、待って…て」

「ンッ…」


俊彦は一旦私から離れ、壁に立てかけてあった厚みのあるマットを床に敷いた。

「…蝶子」


俊彦が私を呼ぶ。


マットは、丁度シングルベッドと同じサイズで、私は余裕で横になれる。


「蝶子〜!」

「…先に、湯船、入りたい…なぁー」


私は催促する俊彦に訴えてみた。


(だって、温泉楽しみたいし…)


横になって、…してしまったら、温泉を楽しむ余裕など無くなってしまうような気がした。


「も〜、待てないよ!俺は!!」


グイッ


「キャッ!」


私は、俊彦に押し倒された。


マットのおかげで背中は痛く無かったが、引っ張られた腕が少し痛かった。


「ごめん…でも… ん? 何、これ!?」

「あ…」


俊彦の視線の先には、小さな切傷のついた私の人差し指があった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫