《MUMEI》

「あの、新井田さん……」

明石君が怖ず怖ずと中に入りたそうに扉を僅かに開いて見ている。


「どうしたの、明石君。
こっちにおいでよ、チョコレート食べるかい?」

明石君が頬を紅潮させて入って来る。
中々懐かない動物を餌付けしている気分……。


「その、昨日は黙って帰ってしまって……」

俯いて空の包みを小さく畳み始めた。


「大丈夫だよ。それより二人共体調悪くなったらすぐに保健室にきなさい。」

それを聞いて明石君の顔は和らいだ。


「あの、新井田さんとち……千秋様はお知り合いなんですか?」


「そうだね。私はお父さんの会社で働いていたから、小さな頃から知っているかな。」


「小さな頃から……!」

興味津々な気持ちを包み紙を弄ることで必死に隠している。

ふふ、楽しい。
ねこじゃらしで猫と遊んでいるみたい……


「明石君は可愛いね……、どんなことがあっても本当に彼を理解したいなら千秋さんから決して離れてはいけないよ?」

だって明石君が孤独な千秋さんを救うのかもしれませんからね……。

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