《MUMEI》
下ガラナイ熱
「なかなか熱下がらないですねー……」

流理の口から体温計を引き抜いて環は呟いた。

と同時に流理は身体を起こした。

「ち…ちょっと流理さん!じっとしていてください」

「いえ……もう平気ですから」

「38度7分も熱があるのに何を言ってるんですか!?平気な訳ありませんっ」

「……オレがもらった休みは1日だけですから…。これ以上休めません。それに早く家へ戻らないと、月岡さんにバレてしまいますよ」

「でも」

「お風呂借りますね」

流理の背中がドアの向こうに消えた。

足元はやはりおぼつかなくて、まだ肩で息をしている。

環は携帯を手に取った。

「流理さんっ!携帯っ、携帯鳴ってますよ」

まだ風呂から出てきていない流理を呼ぶ。

中で急いで出て来る音がして、髪の先から滴を垂らしたままで腰にバスタオルを巻いただけの格好の流理が出て来た。

環は慌てて目を反らした。

顔が赤くなる。

「すみません。ありがとうございます」

携帯を受け取った流理はその場で電話に出た。

「……あれ有理?」

『もしもし?お前、熱はもう治ったか?』

「う、うん。治ったけど?」

『本当か?』

「本当だって。今から仕事だけど」

『……嘘ついてないか?』

「つ…ついてないに決まってんじゃん」

『じゃあ彼女に代われ。そいつに聞けばすぐに嘘か本当かわかるからな』

「……え?」

流理はちらっと目の前の環を見た。彼女に聞けば嘘か本当かわかる?

なんでだよ。

「……わかった」

携帯を環さんに渡した。

不思議そうに環さんはそれを受け取り、電話に出る。

「ハ…ハイ。お電話代わりました」

『今からオレの質問にはすべて“イイエ”で答えろよ。いいな?』

「ハイ……。あっ!イイエ!!」

電話の向こう側でクスッと笑う声が聞こえた。

『流理と一緒にいたい?』

「……イイエ!」

『流理は今、裸だ』

「……イイエっ」

『流理が好き?』

「い……い、いい」

環は今にも泣き出しそうな顔をした。

冗談でもそんなこと言いたくないから。

『どうかした?』

「も……っ私には嘘はつけません!!私……私、流理さんのこと大好きです!」

ぽかーんとした様子で、流理は環を見ていた。

『……流理に代わって?』

笑いを必死にこらえた感じで有理は環にそう言った。

「もしもし?環さんに何か変なこと言って泣かせたなんて、いくら有理でも許さないよ」

『…わかってるよ。でもやっぱり流理は嘘ついてたよ。彼女が泣いたのは緊張し過ぎたせいだ』

「どういう意味?」

『オレが怖いのと、お前のために嘘をつかなければならない重圧だよ。月岡はオレがなんとかしておくから、お前はゆっくりしてろ』

なんだかんだ言って優しい。

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