《MUMEI》

「大悟…」
「ん?」
「今なんか聞こえなかったか?」

俺は微かに聞こえた。女性の透き通った声で「許せない…」と。

「俺は聞こえなかったぜ」
「うん。アタシも」
翔も聞こえなかったのか。
「なんだったんだ…」

そして、夕方になり、俺は自宅へ帰る。普段は静かな住宅街だ。

ちなみに俺は一人暮らし。
鍵を開けて入ると…
「ん?手紙か?」
靴を脱ぎながら文字を眺める。

(これはもしや…挑戦状!)
と思ったが、俺はなんの力もないので戦ったりとかは出来ない。出来るとすれば、俺の得意なバスケぐらいなもんだ。


「ふーん…俺に会いたい?まさか…告白?なんてな。知ったこっちゃねー」
俺はポットを沸かし、買って来たパンをテーブルに広げる。もちろん、既に普段着に着替えた。

「…しかし。なんだあの人の声」
俺にしか聞こえなかった女の人。夢に出るというのか。

(もしかして、この手紙女の人のじゃないか?)
「“気付いたのね…”」
「何?」

俺が聞いたのは確かにこの声だ。
「“紀和さん…”」
「誰だ!姿を見せろ!」
幽霊の仕業だったのか!
俺はすぐに後ろを振り向いた。

「“今の私ではこれで精一杯だけど、肉眼で見えるでしょう?”」
俺は声は聞こえるけど肉体は見えなかったのだ。

「あぁ…君だったんだね」
「申し訳ありません。あの手紙は私が書いたんです」
「へぇ…幽霊でも書けるんだ」

俺は幽霊は小さい頃から見えていた。少しだけだけど、今でも多少分かる。
多分もうこれっきりだろう。

「夢でお逢いしたかったけど、ちゃんと見える方法にしたくて」
「制服はよそのなんだね。どうして俺に会いたかったんだい?」

まずはここから聞き出す。「私はずっとあなたに恋してました。それで会いたくなって…だけど、交差点で猛スピードに走って来る車に引かれたんです」

よその学校の人なのに俺を分かるっていうのが不思議だ…

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