《MUMEI》

     春 

弥生の時期になると、桃の樹の前を通る。

三月になると薄紅に染まる枝を見ながら勤務先に向かうのが好きだった。



上を見ながら自転車は危ないと知っていた……
塊が足元にあり、急いでブレーキを踏む。
ハンドルを切り、避けた。

倒れていたので轢いたと思ったが抱き起こしたときに違うと気付いた。

小学生に見えたが、十代半ばの少年だ。

落ち窪んだ眼窩、土気色の肌、痩せ細ったその姿、栄養失調……?



「救急車……!」

頭で考えるのと体が違う動作の感覚だった。


「……どうしました?乗せましょうか、」

黒い着物を着流した男性が車を止める。



存在感がある人だ、
重厚な声で一瞬で気が引き締まるような……。

「救急車に連絡をお願いします。私の勤めている病院が近くにありますから……!」

私の口が、思考が冷静を取り戻した。

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