《MUMEI》

鼓動が、止まらない。



俺は、狂っている。





アラタに会った心拍数が、恋人の死よりも勝っているだなんて…………


「 ……なおえっ 、……なおえ…………」
譫言のように呼ぶ名前は聞き覚えがあった。

アラタの指先には血痕が付いていて、
何故、こんなことになってしまったのか俺には理解できない。

ただ、彼の首にも若菜と同じ痕があった……。

首を絞められたような痕があった。





彼には、殺せない……

それは
直感だったが、間違いは無い。








「俺はその人になれないけど、……逃げましょう。

俺は貴方の物だから、この手も足も俺は貴方の為に働きます。だから、利用して下さい。」
朦朧とした斎藤アラタの脆弱さは夕日の中で支えたそのままの体躯だったと気付く。

斎藤アラタを抱え、若菜を跨ぐ。
血痕を踏まないように跨いだ。


若菜の死に顔を見ることは出来なかった。



“なおえ”と言うアラタの呟きが夜風と共に耳元を冷やした。

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