《MUMEI》
忍の嫌がらせ
(絶対、嫌がらせだ)


俺は、遅れてやってきた志貴に挨拶する忍を無意識に睨んでいた。


「嫉妬は駄目だぞ、祐也」
「誰がだ!」


小声で囁く祐に対して俺は叫んでしまった。


「? どうかした? 祐也」


何も知らない無邪気な志貴は、首を傾げた。


「…仕方ないヤツだな」


忍は、いろいろな意味にとられそうな発言をして笑った。


(性格悪っ!)


膨れる俺に


「素敵な彼氏で大変ね」


今度は、安藤先輩が囁いた。


「ハハハ…」


(何だろう、この虚しさは)

作戦が成功したのに、ちっとも嬉しく無かった。


「祐也、どうかした? 疲れたの?」

「そうみたいだな。…今日はアパートに帰ったら久しぶりに二人でゆっくり休もうか」


忍は至近距離で俺を見つめた。


「じゃあ、お邪魔だから私達は帰りましょう」


安藤先輩は満面の笑みで祐の腕にしがみついた。


「あ、あぁ」
「そうだな」


祐と葛西先輩は、大人しく従った。


「じゃあ、私も。また、明日、学校で」

「うん、また明日」


俺は志貴を笑顔で見送り、私服に着替え始めた。


そんな俺を、忍は無言で、いつも通り冷ややかな目で見ていた。

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