《MUMEI》

「紀和さん…私は決して嫌がらせで出たというのではありません」
「分かっているさ」

「あなたを追いかけたくてそれでここまで来たんです」

俺はどうしようも出来ない。そんな事言ったって、助ける事も出来ないじゃないか。

「頼むから成仏してくれ…俺は何も出来ないんだから」
「じゃあ死んで」

俺は再び幽霊化した女に首を絞められた!

「ぐっ!…そんな事出来る訳ないだろうが…!」
そして、精一杯力の限り女の腕を振りほどいた。

「ハァ…ハァ…ゲホッ!」
俺の前髪が乱れている。

「“やるじゃない…こんな形で成仏するなんてね…私も思ってもみなかったわ…じゃあね…”」

そして、白い光の中で消えて逝った。

その時俺の足がガクンっと下がり、涙が流れた。

「…こんな俺で…ごめん…」

1時間後、インターホンが鳴った。もう夕方を過ぎているというのに。

「よ!」
玄関先で見たのはロングスカート姿でマフラーをした姿の翔だった。

「なんだ…翔か」
「あれ?目腫れてない?大丈夫?」
「あぁ…ちょっといろいろあって」

寒い所ではなんだという所で、翔を上がらせた。

「お邪魔します!」
「お前はそういう所はしっかりしてんなー」
「ハハハ!親しき者にも礼儀ありってね」

男勝りの翔はケタケタと笑いながら靴を脱いでいる。

「ハァ…疲れた」
「なんで?」
「ランニングがてら走って来たの。飯食ったあとだから」
彼女なんだからもうちょっと可愛く話して欲しい…俺はコーヒーを翔にあげる。
「ありがとう」
「もう付き合って3年になるんだな」
「そうだね…裸も見慣れたもんだ」

いきなりの発言に俺は吹いた。

「ぶっ!」
「なんだよ…本当の事じゃないか」
「い、いや…悪い」
「謝らなくていいよ」

そして、翔はコーヒーを飲んだ後、俺は押し倒された。

「…なんのつもりかな翔クン」
「コーヒー味のキスも悪くないもんだよ?」

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