《MUMEI》

家までの道のり長く、豆粒みたいな明かりだ。

「医師になったきっかけは?」

氷室さんの横顔は鼻筋が通っていて、切れ長の瞳に前髪は上げている、威風堂々とした容姿で声が重厚だ。


「母が亡くったのもありますが、父が医師だったので……。」

ちらりと見えた鋭利な眼光に鳥肌が立つ。

「――――――いえ、正直に言うと分からないです。人の生き死にを私なんかが預かって良いのか、もし医師以外の環境に自分が置かれたらどうなるのか……。そしたら、私は私であるのか……自分のことなのに変ですね。」

何故、こんなことを口に出してしまったのだろうか。



「自分の哲学を口にすることは必要でしょう。」

氷室さんの、その笑うときの瞳との温度差で気付いた。


「哲学だなんてそんな立派なものでは……」

私はこの人に逆らえ無い……。

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