《MUMEI》 羽をもがれた鳥自分の家とは、別の空気がする。 「……?」 首の重さで目が覚めた。 革製の首輪だ、色までは判別出来ないが鎖が続いている。 鎖の先には柱が一本立ってあり、柱の中に鎖は埋め込まれてある。 酷い頭痛に見舞われた。 そのまま横になって天井を見上げる。 シャンデリアだ。 きっと良い硝子なんだろう、光の差し込む角度が美しい。 だだっ広いホールのようだが、柱の付近に自分がミニチュアになったような大きさのベットと遥か彼方の壁には扉がある。 毛の長めのカーペットが擽ったい、そうか…… 私は服を着ていない。 此処は、氷室千石さんの家なのだ。 柱とベット以外の家具は見当たらない。 「……良い恰好だ、不様。」 氷室千石さんの低く冷たい声だ。 足音が近付く。 逆光に立つので影が出来た、黒い着物は一層それらしく見える。 「……何故?」 単語一つ言うだけで苦しい。 「何故?お前は売られたんだ、父親にね……。」 意味が分からない。 「君の父の勤めている病院は私が経営している。 それなりの地位も与えた、しかし経営が傾いたそうで援助を求めてきた。お前はその贈呈品だ。」 現実味のない内容が彼に語らせることで真実になってゆく。 「父が……贈呈……?」 頭が痛い。 「飲めない酒を入れ過ぎたのだな。」 この人は何故、私の事を知っているのだろうか。 「顔に出ているな……お前のことならなんでも知っている。家族構成から血液型、職場の事まで全てな。」 そう言うと軽々と懐に抱えベットに投げ入れられた。 「新井田百枝……モモだな。貴様には氷室千石のモノに相応しい行儀を叩き込もう。」 身体は怠く上手く動かせない。 その隙に首同様、両手足に枷を嵌め込まれる。 足首に手首が密着する形の枷は足が自然と折り曲げられ水泳の達磨のようにベットに転がった。 「いやだ……離して……」 冷徹な彼の落とす視線に身震いが止まらない。 「この家の主人は私だ。お前に権限は無い。 逃げても無駄だ、この地下室は複雑に入り組んである。……酔いが廻っていてはそれも不可能だろうが?」 彼は口元を持ち上げるように私を眺めながら片頬だけで嘲笑う ……私は初めて捕らえられたと自覚した。 前へ |次へ |
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