《MUMEI》

「……どうした?」

七生は口元を押さえている。


「あ、駄目……」

弱々しい七生が手を緩めると白いスーツに染みが広がる。
……鼻血が出ていた。



「ちょ、大丈夫か?逆上せた?」

七生はトイレットペーパーで鼻を押さえる。
ポケットからティッシュを出して七生に渡した。


「うー、止まらん」

上向きに首を上げて目を閉じている。


「鼻の下に付いてるよ。」

固まった血がうっすら鼻の下に付いてて拭いてやる。


「……あのな、
今日、瞳子さんに朗読頼まれてるんだけど『舞姫』は二郎のものだから、二郎を想いながら読むから。」

鼻にティッシュ詰めながら言っちゃうんだものな……なんかドキドキする。
鼻にティッシュなのに。


「……俺も七生の事を想いながら聞いているよ。」

照れ隠しでもあるが、鼻のティッシュが真っ赤でみっともないから代えるように新しいのを渡す。


「えへへへ」

バカっぽい笑い声で七生は鼻にティッシュを詰め直す。


「そういえばいつ朗読?」


「んーと、瞳子さんのお父さんのスピーチ後?」

瞳子さんが乾杯していたよな……?


「すぐじゃないのか?心配だから行ってこい!
俺は七生の血を落としてから行くから!」

俺の後付いて来て主役に恥かかせるつもりだったのか、無理矢理押しやってやる。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫