《MUMEI》
何も言わずに
「祐也君! 待って!」

「… … 美緒さん?」


忍と一緒に病院を出ようとした俺は、振り返った。


「よ、かった〜、今、病室行ったら誰もいなかったから、焦っちゃった」

「わざわざ挨拶に来てくれたんですか?」

「それも…あるけど…っ、祐也君が何も知らないって聞いたから」

「…何をですか?」

「キヨさん、明日退院するのよ」

「それは聞きました」


俺は、昨日のうちに春日さんに挨拶を済ませていた。

春日さんは、『一日違いだね』と笑っていた。


「そうよ。だから、…来て!」

「え?」

「葉月がちゃんと説明するから来て!」


美緒さんは俺の腕を掴んだ。


「で、…でも」


俺は、隣にいる忍を見た。

忍は俺をアパートに送ったら、すぐに屋敷に戻る事になっていた。


「すみません、祐也君をお借りします!」

「…どういう用件で?」


忍は美緒さんを睨みつけた。


「キヨさんと最後のお別れをさせる為です」

「「最後?」」


俺と忍は同時に反応した。

「できなかったら絶対に祐也君は後悔します。
キヨさんは何も言わないつもりなんです。
昨日だって、普通だったでしょう?」

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