《MUMEI》
別れの手紙
病室は四人部屋で、他の三人が寝ていたから、俺は大声で怒鳴る事が出来なかった。


(何で、皆何も言わないでいなくなろうとするんだよ!)


春日さんとこんなに早く別れるなら、俺はもっと春日さんと話がしたかった。


「…座りなさい」


震えながら立ち尽くす俺に、春日さんは静かに言った。


葉月さんと美緒さんは、気を遣って席を外してくれていた。


「顔を見て、ちゃんと話せる自信が無かったんだよ。
言いたい事が、うまくまとまりそうもなくてね。

だから…」


春日さんは体を起こしてベッドに腰かけた。


手伝おうとしたら、止められた。


「書いてみたんだ」

「こんなの…嫌だ」


(遺書みたいだ)


差し出された真っ白い封筒を、俺は受け取りたく無かった。


「恋文だと思えばいい。 こんな婆さんからは嫌かい?
それに、遺産ならお前にはやらないよ」

「いらないよ、そんなの」

俺には既に旦那様の遺産がある。


「困ったねぇ…明日にはお別れなのに」

「ここにいればいいんだ」

「あたしに惚れたのかい?」

「『惚れた』って言えば残ってくれるのか?」

「あたしは一途だって、知ってるだろう?」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫