《MUMEI》 別れの手紙病室は四人部屋で、他の三人が寝ていたから、俺は大声で怒鳴る事が出来なかった。 (何で、皆何も言わないでいなくなろうとするんだよ!) 春日さんとこんなに早く別れるなら、俺はもっと春日さんと話がしたかった。 「…座りなさい」 震えながら立ち尽くす俺に、春日さんは静かに言った。 葉月さんと美緒さんは、気を遣って席を外してくれていた。 「顔を見て、ちゃんと話せる自信が無かったんだよ。 言いたい事が、うまくまとまりそうもなくてね。 だから…」 春日さんは体を起こしてベッドに腰かけた。 手伝おうとしたら、止められた。 「書いてみたんだ」 「こんなの…嫌だ」 (遺書みたいだ) 差し出された真っ白い封筒を、俺は受け取りたく無かった。 「恋文だと思えばいい。 こんな婆さんからは嫌かい? それに、遺産ならお前にはやらないよ」 「いらないよ、そんなの」 俺には既に旦那様の遺産がある。 「困ったねぇ…明日にはお別れなのに」 「ここにいればいいんだ」 「あたしに惚れたのかい?」 「『惚れた』って言えば残ってくれるのか?」 「あたしは一途だって、知ってるだろう?」 前へ |次へ |
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