《MUMEI》
二人
「前は自分で洗えますよ。」

私の世話をしてくれる人は二人居る。

一人は、食事や身の回りの世話をしてくれる憲子さん。


「そうですか、でもお背中くらいはさせて下さい。私の仕事ですから。」

首の鎖が届く範囲内の距離で浴室が壁に隠されていて、そこで憲子さんは私を入浴させたり言えば横の個室トイレに誘導してくれる。

憲子さんは落ち着いた五十代くらいのお手伝いさんで女性恐怖症の私でも気兼ね無く話せた。


「……憲子さん、有り難うございます。」

機敏に背中を流されながら憲子さんに御礼を言う。


「私の仕事なんですからいちいち礼なんて言わなくても良いんですよ。」


「でも、最初は酷く抵抗してましたし。今でも実は抵抗あるんですけど……。
その、こんな大の男の世話なんてさせて申し訳ないです……。」

千石様に詰められた粥を排泄口から出してくれたのも憲子さんだ。
私は千石様の“躾”で訳も分からず失神寸前になっていて、憲子さんはただの仕事だったのに他人に触られる惨めさを噛み締め、彼女を睨んでいた。

ただ体は綺麗にされていたし、憲子さんも慣れているようでポーカーフェイスを保っていた。
彼女の仕事は私の身の上とは関係無いと石鹸の香りを嗅いで思い知った。


「この仕事をして礼なんて言われたの初めてです。
モモ様はご自分に自信が無いようですが私は千石様が選ばれただけあるお方だと思ってますよ。
若年の方ばかりでしたので、モモ様とは話が噛み合いますし。」

憲子さんは女性の中に見え隠れする鋭い切っ先が見えない。
異質な空間に居ても彼女と話しているととても安心する。


「私は憲子さんに救われているから言うんです。」


「憲子、終わったか!」

二人目、藤間さんだ。

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