《MUMEI》

藤間さんは私の世話係であるが、見張り役に近い。
四十前後の男性で彼が笑うところを見たことはまだ無い。


私と憲子さんが話し過ぎないように見張り、千石様に会う前の姿にするのが藤間さんだ。



私は彼が怖い。
逞しい肩幅や大きな風貌は勿論、千石様に忠実にこなす姿が怖い。

千石様のとは別の、無機質な恐ろしさだ。

命令されれば彼は自ら命を絶つかもしれない。


千石様の命令により彼は私に枷や器具を装着させたり時には縛り上げるのだ。
私は彼の力でもって無抵抗に惨めな姿にされ、
藤間さんが遠く扉を見張っている前で千石様に犯される――――



「…………ン、 んん……」

目隠しと猿轡を噛まされ、手足も後ろにテープで止められた。
見えずとも千石様が見下ろす影で体が収縮した。


「ただ、拘束されて犯されるのも飽きたろう?」

そう言いながら千石様は何か硬い冷たいものを頬に付ける。
振り上げられ、ぴしゃりと肌に打ち付けられた音と痛みで初めて鞭だと気付く。


「……ウッ!」

じわじわ、皮膚に熱が回る。


目隠しを外された。
千石様は不敵に嗤っている。深い黒瞳が私に向かっている。
単純な、痛みだ。

痛罵も無く、前も後ろも猥らにする訳でも無く。


鞭打つ度に
音も、革も、體も、撓む。



「……ンフッ」

     ビシィ

「ははは……みっともない恰好だな!」

ビシィ
ビシッ ビシッ

勢いを増して跳ね上がり、我を失ってしまいそうだった。
麻痺した體は言うことを聞かない。

「 ンンンッ ンッ」

狂っている……


「……ふ、はははははは、はははははははは……!」

声を張り咥う姿を、初めて見た。

気付いてしまった。
私の精虫が疼くように、千石様もまた…………

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