《MUMEI》 帰宅俺は、これ以上わがままを言って春日さんを困らせたくなくて、結局頷いた。 「じゃあね、祐也君」 「…また、ね」 「…失礼します」 俺は『さよなら』とも『また』とも言わず、葉月さんと美緒さんと別れた。 「…済んだか」 「一応」 「そうか」 病院の入口にいた忍はそれだけ言うと、俺を車に誘導した。 それは、いつかと違い、ごく普通の車だった。 「レンタカーだ」 質問する前に忍は答えた。 そして、俺達はいつも通り車内でほとんど会話をしなかった。 「ありがとう」 俺の荷物をアパートに置いて出ていく忍の背中に向かって一応礼を言った。 振り向いた忍は無表情だった。 「まだ、何か頼み事があるのか?」 「違う」 (失礼だな) 俺は忍を睨んだ。 「…一応、たまに来てやる。その方が怪しまれないからな。 俺に目が向いていれば、旦那様の事も詮索されないだろうし」 「あんなにベタベタする必要は無いからな」 「普通、久しぶりに会ったらあのくらいするだろう?」 (それはそうかもしれないけど) 納得できない俺を無視して忍は帰っていった。 前へ |次へ |
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