《MUMEI》

「あ……っ!申し訳ありません!」

女性のお手伝いさんが転んで食事を零してしまった。

食事は千秋様と二人で取るようにしている。



「……怪我はありませんか。いけない、冷やさなければ。」

指が赤くなっている。


「すいません、新米なもので、すぐ代わりの食事を」

後から来た先輩らしい人に引きはがされた。


「……待って!」

二人を追いかけて廊下を出ると、新米だという女性は頬を打たれていた。


「や、止めて頂きたい!
彼女は謝って代わりの食事を用意する……それでいいじゃないですか!」


「彼女のミスで私達の評価が下がるのです、貴方はこの屋敷を知らないからそんなことが言えるのです。」


「……し、知ってますよ、少しくらい……」

地下での生活を思い出した。


「所詮、貴女は千石様の愛玩物なんですから口出ししないでください。」

愛玩物……?
癒えたはずの腹の傷が痛んだ。


「モモ様、有難うございます。私、懲罰室に行きます、それでいいですよね?」

指を冷やさずに、彼女は廊下の奥へ消えて行く。


「……貴方は、生きていれば良いのです。」


「モモ!行儀悪いぞ!」

千秋様が私を連れ戻しにきた。


「千秋さん……」




「俺は“さん”なんだな……。」

食卓に晩御飯が運ばれる。椅子を引かれて座ることを促された。


「食べないのか?」

千秋さんは廊下の音が聞こえたのに、平然と食事を始めている。


「……懲罰室に、連れてって下さい。」

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