《MUMEI》

「よ。」


「あら、お疲れさま。」


「小太郎は?」


「話し疲れて寝ちゃったわ。」


「そうか。


今日は調子いいのか?」


「そうね。


小太郎が来てくれたおかげかも。」


「そうか…」


クロの父親。


黒田慎一郎。


彼は毎日仕事が終わると病院へ来ていた。


「ん…


お父さん?」


「起きちゃったか。


ごめんな。」


クロをおぶって自宅に向かっていた。


「ねぇお父さん?」


「ん?」


「お母さんいつ帰って来れるの?」


「…いつかなぁ。


早く帰って来られるといいなぁ。」


「うん…。」


黒田綾子の体の中には、


悪性の腫瘍があった。


つまり、


癌だ。


もう長くはなかった。

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