《MUMEI》
祐の帰還
「ただいま姫〜! これ、お土産!」


修学旅行から帰ってきた祐は、長崎名物のカステラを振り回しながら教室に入ってきた。


(誰が姫だ)


周囲の俺に対する扱いは、確かにお姫様のようなものだったが、誰も俺を直接姫とは呼ばなかった。


だから、俺は祐の言葉を無視した。


「あれ? 姫、ご機嫌ナナメ? もしかして、カステラ嫌い?」

「…その呼び方がまずいんじゃない?」


志貴の言葉に、サッカー部の三人組と


祐の後ろにいた葛西先輩が頷いた。


「え〜、ピッタリだと思ったのにな〜」

「嬉しくない」

「本当に? 普通にこだわって言ってるんじゃなくて?… テテテッ!」


顔を近付けてきたから、耳を引っ張って、大声で言ってやった。


「一般常識でも、俺としても迷惑だから、その呼び方やめろ!!」


祐は、俺の声でしばらく耳がおかしかったらしく、朝礼前のチャイムが鳴っても棒立ちだった。


そんな祐を、葛西先輩が無言で引っ張っていった。


「相変わらず彼女いても仲良いよな」


小さくなっていく二人を見ながら、真司がポツリと言った。


真司は、彼女の希望で、昼休みと放課後は必ず彼女と二人きりで過ごしていた。

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