《MUMEI》
扉の前で
「お礼は言わないから」

「無事…なんですよね?」

出てきた安藤先輩の髪は少し乱れていた。


「平気よ、押さえ付けられた…だけ」


そう言いながらも、安藤先輩は小さく震えていた。


(寒いからじゃないよな)


「保健室…行きましょう」

保健室には祐がいるはずだ。


それなのに、安藤先輩は首を横に振った。


(もしかして、俺と一緒が嫌なのかな?)


それでも、こんな状態の安藤先輩を一人には出来ずに、俺はもう一度口を開こうとした。


「今日は…」

「え?」


先に口を開いた安藤先輩を見つめる。


安藤先輩は、下を向いたまま、ポツリと言った。


「今日は、私の日じゃないから」

「そんなの…!」

「だから、今日は保健室には行きたくない!」


床に、安藤先輩の涙が落ちた。


「ここにいる」


安藤先輩は、その場に座り込んだ。


「俺、どうしたらいいですか?」


どうしたらいいかわからないから、訊いてみた。


「…黙ってここにいて」


袖を引っ張られた。


俺は、頷いて隣に座った。

「さっきのは、同級生」


安藤先輩が『黙って』と言ったから、俺はその先の話も黙って聞く事にした。

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