《MUMEI》
決意
理工学部を目指しているクセに、由自は数学があまり得意ではない。
「答え、出たか?」
「……ルート3」
「違う」
「ええ!?うっそだー」
「嘘じゃねぇよ。違うもんは違うんだよ。いいからやり直せ」
「ハイハイ」
「やり方は合ってるんだから、ミスさえなければすぐに答え出るよ」
もともと由自は学校ではどちらかと言えば不良だった。でも頭は良くて、12位ぐらいだった。授業中はいつも寝ていたクセに。
オレは必死に1位をキープしていたから、由自が本格的に勉強したらオレより全然頭いいと思う。
だからオレが教えたことはすぐに飲み込むし、とても教えがいがある。
「……3ルート5?」
「正解」
「よっしゃあ!」
由自があくびをしながら背伸びをした。
その様子はまるで猫みたいだ。
「気ィ抜くなよ。お前はまだまだこれから伸びないといけないんだから」
「わかってるって」
本当にわかってるかどうかはわからないけど、あと約4ヶ月。
マジにならないと由自は二浪目間違いなしだ。
「……なぁ俊、あのさオレ…本番まであと4ヶ月じゃん」
「?うん」
「オレさ、それまで禁欲しようと思って……」
「マジで!?」
「う…うん。俊には悪いとは思うけど」
「悪くない!!全っ然悪くないよ!むしろいい!」
「……え?」
「いやぁ由自の口からそんな言葉が聞ける時が来るなんてなぁ。オレびっくりしたよ」
「……………」
「あ――これでオレも腰が重くない生活を送れる時が来たよ」
――ドサッ
「……へ?」
「誰が今から禁欲するって言った?」
「い……言ってないけど、なんで今ヤろうとしてるんだよっ」
「お前がムカつくこと言うからだろ?」
「言ってない!」
「……オレにはわかってる。俊のその言葉はただの強がりだって」
「………何が」
「いいよ、強がらなくても。それが本当の気持ちの裏返しだってこと、わかってるからな」
「ち…違っ―――んん…っや、やめ……ろってば――…」
……ったく、由自にはいつもついてけない。
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